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マレーシアの移転価格 (TP) の文書化 2026 — 基準・マスターファイル・ローカルファイル (Sdn Bhd・ラブアン)

公開 · 最終更新 · 執筆 Bangga 編集部 · 約 12 分

結論:2023年改定で文書化義務が大幅強化、未整備法人は実務上のリスクが急上昇

マレーシアの移転価格(Transfer Pricing、以下 TP)制度は、2023⁠年の所得税規則改定(Transfer Pricing Rules 2023、以下 TPR 2023) によって従来制度(TPR 2012)から大きく刷新されました。国内関連者間取引だけでなく、ラブアン IBC・セーシェル IBC などオフショア法人との取引も対象となる場合があり、日系多国籍企業グループが組成するマレーシア拠点(Sdn Bhd)では文書整備の要否を改めて検討する必要があります。

移転価格の調整を受けると、調整額の 5% 以下の加算(サーチャージ)(ITA 1967 §140A(3C)。税額が出なくてもかかる)と、過少申告のペナルティ(訴追しない場合は不足した税額と同額。§113(2))がかかり得ます。さらに、同時文書(CTPD)を求められて 14 日以内に出さないと、それだけで RM 20,000〜RM 100,000 の罰金か 6 か月以下の禁錮、またはその両方の対象です(§113B)。本稿では現行制度の骨格と実務対応ポイントを整理します。

免責事項: 本稿は一般的な情報提供を目的としており、個別案件への適用については必ずマレーシア認定税務エージェント(Tax Agent)または弁護士にご相談ください。

マレーシア TP 制度の法的根拠と 2023 年改定の主要変更点

法的根拠

条文・規則内容
ITA 1967 §140Aアームズ・レングス原則の適用根拠。調整額の 5% 以下の加算(§140A(3C))
Income Tax (Transfer Pricing) Rules 2023 (P.U.(A) 165/2023)文書化義務・方法論・比較可能性分析の詳細規定
Malaysia Transfer Pricing Guidelines 2024(LHDN、2024年12月24日発行)実務ガイダンス(YA2023 から適用。文書化の基準もここに書かれている)
ITA 1967 §113虚偽申告・過少申告に対するペナルティ
ITA 1967 §113B同時文書(CTPD)を期限内に出さないときの罰金・ペナルティ
ITA 1967 §119A記録(CTPD を含む)を 7 年保存しないときの罰金
Income Tax (Country-by-Country Reporting) Rules 2016 (P.U.(A) 357/2016)最終親会社がマレーシアに居住し、前の事業年度の連結の総収入が RM 30 億以上のグループの国別報告書(CbCR)

TPR 2023 の主要変更点(TPR 2012 との比較)

論点TPR 2012TPR 2023
文書化の形式要件ガイドライン準拠で裁量余地大マスターファイル・ローカルファイル構造を明示的に規定
比較可能性分析の義務実務上は任意に近い運用機能分析・リスク分析の記載を明文化
関連者(支配)の範囲持分などによる支配(ITA §139)規則ではなく 2019 年の法改正:2019年1月1日以後に始まる事業年度から、持分 20% 以上で、特許などへの依存・取引の条件の指示・取締役の任命のどれかがあれば「支配」(§140A(5A)。国内の関連者との取引も対象)
ベンチマーク・データ特定データベース指定なし変更なし。比較対象の検索は、事業の条件が変わらなければ 3 年ごとでよい(財務データは毎年更新。MTPG 2024 11.5)
提出期限税務調査要請後 30 日要請後 14 日(短縮)

文書化の基準と、文書が要らない場合

文書化の基準(3 段)

LHDN の Malaysia Transfer Pricing Guidelines 2024(YA2023 から)は、関連者間取引(国内・国外を含む)の規模で次の 3 段に分けています。

CTPD は、その年の法人税の申告期限より前に作って日付を入れておく必要があり、LHDN から求められたら 14 日以内に出します(1.3・11.6)。①でも独立企業間価格で取引する義務は残り、根拠の書類は保存が要ります(1.6)。恒久的施設(PE)は規模にかかわらず full CTPD です(1.4)。

日本の親会社(年商 50 億円規模)がマレーシア Sdn Bhd に経営管理サービス料(Management Fee)を RM 60,000/月(年間 RM 720,000)で請求するケースは、これが唯一の関連者間取引なら総額が RM 100 万以下のため CTPD は不要です。親会社からの仕入れなどほかの関連者間取引と合わせて RM 100 万を超えると、②に当たらない限り minimum CTPD(または full CTPD)が要ります。

文書(CTPD)が要らないそのほかの場合

①のほか、事業をしていない個人、国内の関連者とだけ取引する個人事業・パートナーシップは CTPD が要りません。国内の関連者とだけ取引する会社も、双方が「優遇税制を受けていない」「同じ税率で課税される」「取引の前の 2 年連続で赤字でない」の 3 つがそろえば要りません(MTPG 2024 1.5(d)。ガイドラインの本文は「or」、流れ図は「or (and)」で、どれか 1 つでよいのか 3 つとも必要なのか文言が分かれるため、1 つでも欠ける場合は税務代理人に確認してください)。どの場合も、独立企業間価格で取引し、根拠の書類を保存する義務は残ります(1.6)。


マスターファイル・ローカルファイルの具体的記載要件

マスターファイル(Master File)

OECD BEPS Action 13 に準拠した構造が要求されます。最低限必要な記載項目は以下のとおりです。

ローカルファイル(Local File)

マレーシア法人(Sdn Bhd 等)ごとに作成。主要記載事項:

  1. 法人の事業概要:組織・機能・リスク負担(FAR 分析)
  2. 関連者間取引の詳細:取引類型別(物品・サービス・ロイヤルティ・ローン)に金額・相手方を記載
  3. 移転価格算定方法(TPM)の選定根拠:CUP・RPM・CPM・TNMM・PSM のいずれを選択したか、その理由
  4. 比較可能性分析:独立第三者取引との比較(ベンチマーク)、使用データベースと検索ストラテジー
  5. アームズ・レングス・レンジ(ALR):比較対象のデータの 37.5〜62.5 パーセンタイルの範囲(Rules 13(5)・MTPG 2024 2.12。範囲を外れると中央値などに調整されます)

提出言語:英語またはマレー語のみ。日本語資料のみでは要件を満たしません。


ラブアン法人・セーシェル IBC との取引における TP 上の留意点

ラブアン法人(Labuan Company)の税制と TP

ラブアン法人は LFSA(Labuan Financial Services Authority) の監督下にあり、適格な実質的活動(Substance)を満たす場合、貿易所得に 3% の優遇税率が適用されます(Labuan Business Activity Tax Act 1990)。

ただし、ラブアン法人とクアラルンプール本土の Sdn Bhd が関連者間取引を行う場合、以下のリスクが生じます。

リスク類型内容
TP 調整リスクLHDN がアームズ・レングス価格を超えた利益移転と認定した場合、Sdn Bhd 側で所得加算
Substance 否認リスクラブアン法人が名目上の拠点に過ぎず「実質的支配」がKL にある場合、3% 優遇が否認され 24% 課税
PE 認定リスクラブアン法人の意思決定者が KL で活動している場合、本土に PE が認定される可能性

実務対応: ラブアン法人には 取締役会を年 1 回以上ラブアンで開催する(規則上は純粋持株会社の要件。事業会社にも推奨)、取締役会議事録をラブアン島で作成・保管する、年間最低運営費用(業種別。例: 管理・会計などのサービス業は RM 50,000 以上、銀行・保険は RM 200,000 以上。P.U.(A) 423/2021) を現地で支出するなどの Substance 整備が不可欠です。

セーシェル IBC との取引

セーシェル IBC はマレーシアの「非居住者関連者」として扱われます。セーシェル IBC が知的財産を保有し Sdn Bhd にロイヤルティを支払わせる構造では、ロイヤルティ料率のアームズ・レングス検証 が必須です。2024 年以降、LHDN はロイヤルティ取引への調査を強化しており、CUP 法または利益ベース法(TNMM)によるベンチマーク分析を文書化していない場合の調査リスクは高いと判断されます。


ペナルティ体系と税務調査の実態

ペナルティ一覧(所得税法・MTPG 2024。2026 年 10 月確認)

違反類型根拠条文ペナルティ
移転価格の調整を受けたITA §140A(3C)調整額の 5% 以下の加算(税額が出なくてもかかる)
過少申告(訴追しない場合)ITA §113(2)不足した税額と同額(100%)
過少申告(訴追された場合。善意を示せないとき)ITA §113(1)RM 1,000〜RM 10,000 の罰金と、不足した税額の 2 倍の特別ペナルティ
故意の脱税ITA §114RM 1,000〜RM 20,000 の罰金か 3 年以下の禁錮(または両方)と、不足した税額の 3 倍の特別ペナルティ
CTPD を 14 日以内に出さないITA §113BRM 20,000〜RM 100,000 の罰金か 6 か月以下の禁錮(または両方)。訴追しない場合も RM 20,000〜RM 100,000 のペナルティ(年度ごと)
記録(CTPD を含む)を 7 年保存しないITA §119ARM 300〜RM 10,000 の罰金か 1 年以下の禁錮(または両方)

LHDN の調査優先度

LHDN は 2023〜2024 年にかけて以下の業種・取引類型を重点調査対象としています(LHDN 公表資料および実務界での情報から):

  1. 製造業の原材料・完成品の関連者間販売
  2. 管理費(Management Fee)・サービスフィーの親子会社間配賦
  3. ブランドロイヤルティ・技術ライセンスフィー
  4. 関連者間ローンの利率(マレーシア国内金利水準 vs. 設定利率)

税務調査期間は通常 1〜3 年分の取引 を対象とし、ローカルファイルの提出期限(要請後 14 日)は非常に短いため、文書は事前作成・年次更新 が不可欠です。


日本の CFC 税制(タックスヘイブン対策税制)との交差点

ラブアン IBC の実効税率と合算課税リスク

海外子会社の所得を日本側の所得に合算して課税する制度が、日本の外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制、CFC 税制)です。ラブアン法人の税率(事業活動は利益の 3%、持株専業は 0%)は、会社単位の合算を免除する租税負担割合のライン(ペーパー・カンパニー等は 27%、それ以外は 20%)をどちらも下回ります。合算を免れるには経済活動基準を満たす必要がありますが、マレーシア側の実体要件(現地スタッフ・年間営業支出)を満たすことと、日本側の経済活動基準を満たすことは別の判定です。

判定の考え方は 日本側で必要な手続き、申告書への添付と合算する年分は 外国子会社合算税制(CFC 税制)、マレーシア法人での論点は CFC 税制とマレーシア法人 にまとめています。どう扱われるかは事業の実態によるため、必ず税理士にご確認ください。

TP と CFC の連鎖リスク

ラブアン IBC が日本親会社にロイヤルティを支払う構造では、マレーシア側で TP 否認(対価の引き下げ)が生じると、ラブアン IBC の課税所得が増加し、さらに日本側の CFC 合算所得にも影響する二重リスクが発生します。逆に、Sdn Bhd がラブアン IBC にサービスフィーを過大支払いしている場合、マレーシア側で損金不算入とされる可能性があります。


実務チェックリストと年次対応スケジュール

年次 TP コンプライアンス・スケジュール(Sdn Bhd、12 月決算の場合)

時期作業内容
1〜2 月前期の関連者間取引の総額と総事業収入を確定し、CTPD が要るか(総額 RM 100 万超)、full か minimum か(総事業収入 RM 3,000 万超かつ国外の関連者間取引 RM 1,000 万以上、または資金の支援 RM 5,000 万超なら full)を確認
3〜4 月FAR 分析の更新、ベンチマーク・サーチの実施(Orbis 等)
5〜6 月ローカルファイル・マスターファイルのドラフト完成
7 月法人税申告書(Form C)提出期限(通常 7 月末)までに文書化完了
随時新規関連者間取引開始時に取引前ベンチマーク実施・文書追加

最低限整備すべき文書リスト


まとめ

TPR 2023 の施行により、マレーシアの TP 文書化義務は OECD 標準に実質的に統一 されました。ラブアン法人・セーシェル IBC を活用したグループ内利益配分スキームは、Substance 要件・PE リスク・TP 調整リスクの三重チェックが必要です。文書化の欠如は税額加算だけでなく 最大 RM 100,000 の固定罰金 を招くため、年次サイクルでの事前整備が合理的なリスクマネジメントになります。

TP の文書の作成と LHDN への対応は、マレーシアの認定税務エージェント(Tax Agent)にご相談ください。日本側の税金のご判断は、税理士にご確認ください(提携の税理士をご紹介できます)。ラブアンのオフィスや常勤者の手配など、マレーシア法人の現地の体制づくりは、Bangga にご相談ください。

注意: 本稿の内容は 2024 年 12 月時点の公開情報に基づきます(文書化の基準・罰則・独立企業間の幅・規則とガイドラインの名前は、2026 年 10 月に LHDN の Malaysia Transfer Pricing Guidelines 2024 と所得税法の更新版(2024年5⁠月時点)で確認しました)。税法・規則は頻繁に改定されるため、具体的な税務判断については必ずマレーシア認定税務エージェント(ITA 1967 §153 登録者)または弁護士にご相談ください。

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